コラム
身体拘束のない未来へ
介護や医療の現場で向き合わなければいけない課題「身体拘束」。介護保険施設やご自宅では、原則として身体拘束は禁止されていますが、「緊急でやむを得ない状況」の中でのみ、身体拘束を行うができます。これは「切迫性」「非代替性」「一時性」の３要件すべてを満たし、かつ、要件の確認等の手続きが極めて慎重に実施されている場合に限られます。ですが、本人や周りの安全を守るためとは言え、身体拘束が行われ、どこかに縛られているなどする親やパートナーを見てご家族が苦悩している姿を、仕方のないものとしてしまってはいけません。「やむを得ない」という言葉で諦めず、私たちはこの課題と向き合っていかなければならないのです。
身体拘束が生み出す弊害
身体拘束は本人の身体とその精神に多くの弊害をもたらします。身体への影響としては、ベッドや車椅子に拘束することで身体の自由を奪い、筋力の低下などの身体機能の低下や、動きを制限することにより褥瘡（床ずれ）などが発生しやすくなるおそれがあります。精神への影響としては、身体拘束されたことへの不安や恐怖、怒りなどの精神的苦痛を生み出すばかりか、本人の自由を奪うことで、人間としての尊厳をも侵すことになります。その状況を見た家族へも多大な精神的苦痛を与えることでしょう。また、介護者達も、自分たちが行ったことへの罪悪感などで自分たちのケアに自信や誇りが持てなくなり、士気やサービスの質の低下など、介護のプロが配置さている施設やホームでも、負の影響が大きくなります。よりよいケアを目指すために、身体拘束が生み出す悪循環を断ち切らねばなりません。
身体拘束は廃止できないのか
「安全を確保するためや、事故を防ぐために、どうしても必要」「介護者やスタッフの不足などから、身体拘束をせざるを得ない」身体拘束を廃止できない理由として、この様な意見がよく挙がります。確かに自宅以外でも、介護業界では人手がまだまだ足りておらず、スタッフ数が充実している環境の方が珍しいかもしれません。ですが、そこで諦めてしまったらこの問題はいつまでも解決されることはないでしょう。「今すぐに身体拘束を完全に廃止する」といった理想を叶えるのはとても困難な事ですが、理想を目指さなければそこに到達する事はありません。
身体拘束廃止に向けて
どのような状況でも身体拘束を実施しない、という行動目標を掲げるだけでなく、身体拘束を必要としない状態や環境をつくり出す、という方向性を追求していく事が、求められます。事故の起きない環境を整え、身体拘束せざるを得ない場合についても、本当に代替する方法はないのかを真剣に検討する事が大切です。既に身体拘束を行なった場合でも、「なぜ身体拘束せざるを得ないのか」を考え、いかにして拘束を解除するのかを検討することから始め、問題や原因の本質の追求を行わなければなりません。困難が伴う場合であっても、身体拘束を誘発する理由や原因を探り、身体拘束解除を実現するケアのあり方を模索し、創意工夫を重ねて解除を目指しましょう。言葉にする事は簡単ですが、実際にこの問題を解決することは容易ではありません。ですので、介護に携わる全ての方々が同じ未来を見据え、理想を目指す強い意志が大切になります。
身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケアを」の実現を
まず、身体拘束を必要としない状態の実現を目指す事が大切です。身体拘束廃止の取り組みは、ケア全体の質の向上や、生活環境の改善のきっかけになり得ます。
ですが、身体拘束廃止が全てのゴール地点ではありません。身体拘束を通して見えた課題、それらの問題に取り組み「よりよいケア」の実現を探求していく事こそが、重要です。
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