コラム
末期がんの方に必要な心身のケアとは?段階ごとの内容やご家族ができることを解説
末期がんと診断された方は、身体的な苦痛だけでなく、心の変化や不安にも直面します。変化は一度にではなく、段階的に現れるのが特徴です。その都度適切なケアを行うことが、気持ちの安定や生活の質の維持につながります。
本記事では、末期がんの診断を受けた後に必要な心身のケアとともに、ご家族ができるサポート方法についても解説します。大切な人が安心して過ごせるように、心と体の両面から支えるポイントを理解し、実生活に役立ててみてください。
末期がんの方に必要な心身のケア
末期がんと診断された方は、がん告知や再発・転移をきっかけに、三段階に分かれた心理的変化を経験します。本章では、段階ごとの心理的支援と身体的ケアについて解説します。
なお、心理的な変化の現れ方には個人差があり、ここで紹介する三段階は一例です。実際には複数の感情が同時に現れたり、行き来したりすることもあります。
➀衝撃・否認・絶望の時期
診断を受けた直後は、強烈なショックで「信じられない」「自分だけは違うはず」と現実を否認してしまう方が少なくありません。この段階で、急にすべての情報を伝えてしまうと、混乱が増して絶望感を深めてしまう恐れがあります。
まずは、病名や治療の大枠といった基礎情報にとどめ、患者様の反応を確認しながら、少しずつ説明を進めることが大切です。また、患者様本人が感じている思いや不安を吐き出せる場をつくり、ご家族や医療者は焦らず耳を傾けるように心がけましょう。
加えて、強い不安や不眠が続く場合には、抗不安薬や鎮静薬を適切に用い、心身の緊張を緩和することが重要です。こうした小さな積み重ねが、現実を少しずつ理解するための基盤となります。
②不安・抑うつの時期
病状を徐々に理解し始めると、将来への不安や喪失感から、抑うつ状態に陥りやすくなります。この時期は「なぜ自分が…」といった思いに押しつぶされて「眠れない・食欲がない」などの症状も出やすいです。
ここで有効なのが「患者教育」で、病気や治療の見通しを分かりやすく説明することにより、漠然とした不安が具体化され、心が軽くなっていきます。また、心理士やカウンセラーによるカウンセリングを通じて感情を整理し、認知行動療法などで日常生活のリズムを整えると、気持ちの安定につながります。
さらに、腹式呼吸やストレッチなど、簡単なリラクゼーション法も取り入れると良いでしょう。必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬を使用すれば、精神的な負担を減らし、再び生活に向き合える力を養うことが可能です。
③適応の時期
適応期には、自らの余命や病状を受け止め「残された時間をどう過ごすか?」を考えられるようになります。この段階では、患者様の意思を尊重し、治療方針や生活の過ごし方について、ご本人が主体的に決められるよう支援しましょう。
例えば「旅行に行きたい」「家族と写真を撮りたい」といった希望を叶えることは、患者様にとって大きな生きがいになり、残りの時間を安らかに過ごすきっかけになります。
一方で、疼痛や息苦しさなどの身体的苦痛を放置しては、心の充実も得られません。緩和ケアチームと連携し、薬物療法や体位調整、呼吸リハビリテーションなどを駆使して、症状を和らげることが重要です。心身の苦痛をできるだけ抑えることで、患者様自身が自分らしい時間を最後まで過ごせるでしょう。
ご家族が末期がんの方のためにできること
末期がんの方を支えるうえで、ご家族の存在は何よりの心の支えです。普段の接し方や会話の姿勢、生活環境の整え方など、小さな工夫が患者様の心の安らぎを左右します。本章では、ご家族が実際に行える具体的なサポート方法について説明します。
これまで通りに接する
がんと診断されたからといって、急に態度を変えたり過度な扱いをしたりすると、患者様は違和感を察して、孤独感を深めてしまうことがあります。そのため、可能な限り、以前と同様に接するよう心がけましょう。普段と会話を変えずに、できることは任せ、難しいことだけをそっと支える姿勢が、自然な居心地の良さを生み出します。
また、励ますつもりで「頑張って」と声をかけても、場合によっては重荷に感じられることがあります。そのため「今日も一緒に過ごせてうれしい」など、日常を肯定する言葉を選ぶことが望ましいです。
患者様の話に耳を傾けて気持ちを理解する
末期がんの方は、不安や恐怖、時には怒りや後悔といった複雑な感情を抱えることが多いです。そうした気持ちを否定せず、静かに耳を傾けてみましょう。途中で口を挟まずに、最後まで聴くことで「理解されている」という安堵感が生まれ、患者様は孤独から解放されます。
また、消極的な意見に対して、無理に明るい話題へ変えるのではなく「そう感じるのも当然だよ」と共感を示すと、不安を軽くするきっかけへとつながります。さらに、患者様が口にした言葉を繰り返すだけでも理解が伝わり、信頼関係が深まるでしょう。
加えて、宗教的・哲学的な価値観も含めて尊重し、「どのように生きたいか・どんな最期を迎えたいか」を共に考えることも大切です。
体調や心の状態についてじっくり話す
患者様の体調や心の変化についてオープンに話し合うことは、お互いの気持ちを共有するために必要な時間です。痛みの強さや食欲の有無、気分の落ち込みなどを具体的に言葉にすることで「何を今やるべきか?」が明確になります。
例えば、痛みの程度を数字で表す、食事量を簡単に記録するなど、日常で把握しやすい工夫をすると、医療チームへの報告もスムーズです。また「今日はどう?」と声をかける習慣を持つことで、身体だけでなく、心の状態にも自然と耳を傾けられるでしょう。
こうしたやりとりが孤独感を和らげ、患者様の気持ちを軽くします。さらに、ご家族が正確な情報を医療者に伝えることで、より適切で迅速なケアにつながります。
患者様がリラックスできる環境を整える
生活環境は、患者様の心身の状態に大きな影響を与えます。静かで落ち着いた空間を保ち、照明や室温を調整するだけでも、緊張が和らぐでしょう。必要な物品を手の届く場所にまとめると動作が楽になり、自立心を損なわずに過ごせます。
さらに、患者様の好きな音楽や香りを取り入れる、写真や思い出の品を身近に置くといった工夫は、居心地の良さを高めます。人によっては、ペットとのふれあいも大きな癒やしになるでしょう。
まとめ
末期がんの方に必要なケアは、病状に応じた医療的な支援だけでなく、心の変化に寄り添う姿勢と、ご家族の支えがあってこそ成り立ちます。「衝撃・否認・絶望」「不安・抑うつ」「適応」という三つの段階ごとに、適切な心理的・身体的ケアを行うことで、患者様は最期まで自分らしく過ごせます。
なお、ケアにあたっては、ご家族の負担も大きくなります。つらい状態や介護負担をひとりで抱えず、主治医・訪問看護師・緩和ケアチームや、行政機関の相談窓口等に相談しましょう。適切なサポートを受けることで、ご家族の負担も軽減されます。
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