コラム
進行性筋ジストロフィー症のリハビリテーション方法を解説!自宅での注意点もご紹介
進行性筋ジストロフィー症は、筋力が徐々に低下していく進行性の難病です。親の介護を担う世代の方にとっては「少しでも動ける状態を保ちたい」「誤嚥や転倒を防ぎたい」などの思いが強いかもしれません。
本記事では、進行性筋ジストロフィー症の原因や代表的な症状を確認したうえで、具体的なリハビリテーション方法や自宅で生活する際の注意点を解説します。
進行性筋ジストロフィー症とは?
進行性筋ジストロフィー症は、遺伝的な要因によって筋肉が徐々に弱まり、日常生活に大きな制限をもたらす進行性の難病です。筋肉を構成する「たんぱく質」をつくる遺伝子に異常が起きることで、発症します。
進行性筋ジストロフィー症には複数の型があり、代表的なデュシェンヌ型(DMD)は小児期に発症し、10代後半で歩行が難しくなります。一方、肢帯型や顔面肩甲上腕型では成人期以降にゆっくり進行することがあります。
また、進行性筋ジストロフィー症はいくつかのタイプに分けられ、それによって症状が異なります。共通した特徴は、以下のとおりです。
<代表的な症状>
・筋力低下(特に下肢)による歩行困難や転倒の増加
・筋肉の萎縮に伴う運動の制限
・呼吸を担う筋肉が弱まることで起こる呼吸障害
・心筋に障害がおよぶことで生じる不整脈や心不全
治療法に関して、現段階では根本的に治す方法が確立されていません。しかし、進行を遅らせたり、生活の質を維持したりするための治療は行われます。
<治療法>
・リハビリテーション:理学療法や作業療法で身体機能を維持し、生活動作を支える
・薬物療法:ステロイド薬が進行を遅らせるといわれている。近年は、遺伝子治療などの研究も進んでいる
・補助機器の活用:車いすや装具、人工呼吸器などを取り入れ、生活の自立度を高める
こうした治療や支援は、医師・リハビリテーション専門職・看護師など、多職種によるチームで行うことで、包括的にフォローできます。ご家族も含めた連携が、生活の質を守る基盤となります。
進行性筋ジストロフィー症の8つのリハビリテーション方法
進行性筋ジストロフィー症は、進行性に筋力が低下するため、生活の自立度を少しでも維持するためのリハビリテーションが欠かせません。本章では、症状に合わせて取り組める8つの方法を解説します。
➀筋力トレーニング
筋力トレーニングは、残存している筋肉の機能を少しでも保つことを目的とします。ただし、高い負荷や長時間の運動は、筋肉を損傷させるリスクがあります。逆効果となるため、軽負荷で短時間だけ行うことが基本です。立ち上がり動作やベッド上での手足の運動など、日常に取り入れやすい動作を中心に実施しましょう。
②関節可動域訓練
関節可動域訓練は、関節が硬くなる「拘縮」や、変形を予防するために必須のリハビリテーションです。自分で動かせる関節は、毎日ゆっくりと伸ばしましょう。一人で動かすことが難しい関節は、家族やリハビリテーション専門家からの介助を受けながら動かすことで、柔軟性を保てます。
③装具・車いす処方
筋力低下が進むと、立位や歩行が難しくなるため、下肢装具や車いすを活用します。適切な補助具を用いることで転倒予防につながり、安全のもとで外出や社会参加を続けやすくなります。
また、装具や車いすの選定には、専門職の関与が不可欠です。医師・理学療法士・義肢装具士が協力し、その人の体格や生活環境に合ったものを処方してもらうことが、快適な生活を続ける秘訣となります。
④転倒・事故予防対策
症状が進むと、筋力やバランス能力が弱まり、転倒の危険性が増します。そのため、まずは住環境の整備を検討しましょう。家の段差をなくす、浴室やトイレに手すりを設置する、滑りにくい床材や靴を選ぶなどの工夫が効果的です。
さらに、リハビリテーションの一環として、日常動作やバランストレーニングを取り入れると、身体の安定性を保ちやすくなります。家庭内外での安全対策を徹底することが、転倒や事故を防ぐポイントとなります。
⑤呼吸理学療法
筋力低下は呼吸筋にもおよび、痰の排出が難しくなったり、息苦しさを招いたりします。呼吸理学療法で口すぼめ呼吸や腹式呼吸といった呼吸法、体位を工夫して痰を出しやすくする排痰法を練習することで、肺の換気を助けます。
進行すると人工呼吸器や排痰補助装置を導入することもあり、専門職による継続的な指導が欠かせません。定期的に練習することで、呼吸機能をできるだけ長く維持できます。
➅作業療法
作業療法は、食事・更衣・入浴などの日常生活の動作をできるだけ自分で行えるように支援し、生活に張り合いを持てることが目的です。体力を温存しつつ効率よく活動できるよう、軽く扱いやすい調理器具に変更したり、衣服をマジックテープ式に変えたりするなど、生活環境を整えるアドバイスをします。
➆構音・嚥下(こうおん・えんげ)訓練
進行に伴い、発声や飲み込みの機能も低下します。構音訓練では、舌や唇の動きを高める発声練習を行い、嚥下訓練では飲み込みやすい姿勢をとる、食事の形態を工夫するなどで誤嚥を防ぎます。
特に、誤嚥性肺炎は重篤な合併症となるため、早期からの対応が不可欠です。言語聴覚士が一人ひとりに合わせた方法を指導することで、未然に誤嚥を防ぎます。
⑧IT訓練
ITを活用したリハビリテーションは、社会とのつながりを維持するうえで、近年さらに需要が増しています。パソコンやタブレットの基本操作を学ぶだけでなく、音声入力や口・手のわずかな動きを使ったスイッチ操作などを導入することで、筋力が低下しても情報へのアクセスや意思疎通が可能です。
オンラインで学習や趣味を続けたり、遠隔診療を受けたりもできます。生活の幅を広げるITスキルの習得は、身体機能が制限される方々にとって、大きな支えになります。
障害者総合支援法に基づく『意思伝達装置の給付』などの制度を活用すると、機器導入費用の助成が受けられる可能性がありますので、行政機関や専門職の方にご相談していただければと思います。
進行性筋ジストロフィー症の方が自宅で過ごすときの注意点
進行性筋ジストロフィー症の方が安心して自宅で生活するためには、転倒予防や体重管理、運動量の調整など、環境に応じた対策が必要です。本章では、特に重要な3つのポイントについて解説します。
転倒を防ぐ環境をつくる
筋力低下により転倒の危険が高まるため、住環境の整備は欠かせません。床に物を置かずに動線を確保する、段差をなくしてスロープを設置するなど、バリアフリー化を検討しましょう。
具体的には、浴室やトイレに手すりを取り付ける、夜間移動の際は足元灯を活用すると安全です。必要に応じて肘や膝のプロテクターを使うと、転倒時のけが予防にも役立ちます。
定期的に体重を確認する
体重の変化は、筋肉や全身状態を把握するうえで、見逃せない項目です。定期的に測定を行い、急な増減がないかを確認しましょう。ステロイド治療中は食欲が増す傾向があり、体重増加が筋肉や関節に負担をかける可能性があります。また、浮腫(むくみ)の増減の目安にもなります。
逆に急な減少は、栄養不足や合併症の兆候かもしれません。体重変化が見られた際は、早めに主治医へ相談し、栄養士や医療チームと連携しながら、バランスのとれた食生活を心がけることが大切です。
過度な運動を避ける
進行性筋ジストロフィー症では、運動が生活機能の維持に役立ちます。しかし、筋力が弱っている状態で強い負荷をかけると、かえって筋肉を痛めてしまう恐れがあるため、注意が必要です。
軽いストレッチや短時間の運動を中心に取り入れ、必ず途中で休憩を挟みましょう。運動プログラムは、理学療法士など専門職の指導を受けながら、その日の体調に合わせて実施することで、無理なく続けられます。
まとめ
進行性筋ジストロフィー症は、筋力の低下や呼吸・嚥下障害などにより、日常生活に大きな影響を与える難病です。しかし、適切なリハビリテーションや住環境の工夫、家族や専門職との連携により、生活の質を維持しながら安心して過ごすことが可能です。
症状が進んで、自宅での介護が難しくなった場合には、専門的なサポートを受けられる施設を検討することをおすすめします。
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