コラム
eスポーツの運動プログラムで元気いっぱい
最近よく耳にする『eスポーツ』。これは『エレクトロニック・スポーツ(Electronic Sports)』の略で、コンピューターゲームなどを使ったスポーツ対戦競技のことです。
広義では「電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す」とJeSU(日本eスポーツ連合)は述べています。今やeスポーツは、IOC(国際オリンピック委員会)と国際競技連盟(IF)などが中心となり、2023年には世界規模の競技大会が開催されるなど、メジャーなスポーツとなっています。もはやゲームもれっきとしたスポーツとして認められたということですね。
また、eスポーツは、健康維持や機能訓練に良い影響を与えるとも考えられています。そういった観点から、opsol株式会社が愛知県春日井市で運営している『パリアティブケアデイサービス春日井』は、2024年4月、『TANO』という、コントローラーなどの機器が一切必要のないゲーム機器を導入しました。
今回はこのeスポーツと運動について取り上げ、お話させていただきたいと思います。
紹介:オリンピックeスポーツ公式HP https://olympics.com/ja/esports/
引用:JeSU(日本eスポーツ連合) https://jesu.or.jp/contents/about_esports/
eスポーツがリハビリに良いのはなぜでしょうか
いろいろな記事やコラムで「eスポーツはリハビリ効果がある」といった趣旨の言葉をよく目にします。実際のところはどうなのでしょうか。具体的に「何が」「どのように」効果があるのでしょう。
これについて慶應SFC学会という学会が、2020年に出版した論文『eスポーツという大いなる可能性』の中で、人間の頭の中にある『遂行機能』や『注意機能』、そして『記憶能力』などが含まれる『認知機能』において、高齢者を対象に調査をしているのです。
■調査に使用した検査の種類は次の通りです。
- 簡易TMT検査
タスク(ここではゲーム)完了までの平均所要時間を計測し、主に『注意機能』の評価方法として活用されています。
※方法…(例)無造作に置かれた数字のカードを順番に線で結び、その時間を測ります。
- 簡易ストループ検査
平均反応時間を計測し、発達障害や認知機能障害などを明らかにするためのツールとして活用されています。
※方法…(例)赤いインクで「みどり」と書かれたカードを見て、インクの色(この場は赤)を答えるまでの反応時間を測ります。
■ 簡易TMT検査と簡易ストループ検査の調査結果は下記グラフの通りです。
※eスポーツの実施前と実施後にそれぞれ検査を行い、時間の差異を測定したところ、非常に興味深い結果が出ています。
▼ 『簡易TMT検査』結果
▼ 『簡易ストループ検査』結果
すごいですね。上記調査結果から見ても、eスポーツは充分に利用する価値はありそうです。
詳しい検査内容はこちら↓
【コラム】TMT検査とストループ検査について
【NOTE】
- 遂行機能…設定した目標に向けてどうするかを計画し、効果的に行動すること。
- 注意機能…大切なことなどに意識を集中する動きのこと。
- 認知機能…物事に対する理解、判断、倫理などの知的機能のことで、『知的機能』とはこれらを大脳で行われるものを指します。
※論文『eスポーツという大いなる可能性』については、下記リンク先にある『KEIO SFCJOURNAL』に『解説・レビュー論文』として掲載されています。
紹介:慶應SFC学会 https://gakkai.sfc.keio.ac.jp/journal/jp/post.html
パリアティブケアデイサービス春日井で導入に至った経緯
今まで高齢者の方の使用を想定・目的としたゲームはいくつもありましたが、私たちの思い描く「機能訓練を伴ったゲーム」に対して、「これだ!」と共鳴を与えてくれるものはありませんでした。
ある日、介護福祉関係の事業者交流会の場で『TANO』というトレーニングツール(ゲーム感覚で使える機能訓練システム)のデモンストレーションが目に留まりました。この『TANO』は最新のテクノロジー(技術)を取り入れながら、多種多様な運動や機能訓練を行うことができます。また、ゲームの種類も豊富で、非常に魅力的なシステムだと感じました。
後日、opsol株式会社が運営する『パリアティブケアデイサービス春日井』で、現場の職員さんにもデモンストレーションに参加してもらいました。その結果、大変前向きな感想をたくさん聞くことができ導入に向けて検討を始めました。
その中で、opsol株式会社が運営するパリアティブケアホームの現状を振り返ってみると、このようなことはご利用者様にとって馴染みが薄く、関わることがほぼ無いのが実情です。しかし、新しいふれあいとそれを活用した運動を行うことで、機能訓練や健康維持に効果があるのなら、おのずと答えは見えてきます。
「やはりこれは、使わない手はない。」と考えるに至ったのです。
尚、導入場所については、通所介護事業所である『パリアティブケアデイサービス春日井』に決定しました。その理由は、このデイサービスではADL(※1)の高い方が多くご利用されています。これにより複数人でのレクリエーション活動が大変重要な意味を持つと考えることができます。その考えに最も相応しいのは『パリアティブケアデイサービス春日井』である、という結論に至ったのです。さらには、この『TANO』を気軽に取り組める環境(親和性(※2)のある暮らし)を提供できるよう活動を始めた次第です。
ちなみにこのような取り組みは、すでに三重大学医学部付属病院で「eスポーツで楽しく認知機能の改善を目指す」として積極的に行っているそうです。
紹介:三重大学附属病院ONLINE MEWS(オンラインミュース)
https://mews.hosp.mie-u.ac.jp/go_muh/initiative/1662/
「Activities of Daily Living」の略称で、『日常生活動作』のことを指し、人が生活を送るために行動する活動能力のことです。その『日常生活動作』には、食事や排せつ、買い物や金銭管理などが挙げられます。
本来は「物質と物質が容易に結合(結びつきやすい性質)できる傾向のこと。」とありますが、近年では「人と人、人と物との関係性や相性の良さ。」として認知されていることが多いようです。ここでは後者の意味を「親和性」として取り上げることとしました。
優れた動体感知機能と多彩なコンテンツを持つ『TANO』
冒頭でも少し触れましたが、『パリアティブケアデイサービス春日井』に『TANO』という非接触型モーションシステムを採用した機器を導入しました。
『TANO』は老人ホーム検索サイトで施設掲載数が業界トップクラスの『みんなの介護」に紹介されたり、「地域新MaaS創出推進事業」というちょっと複雑な事業で活用されたりと、福祉施設や病院、商業施設、スポーツジムと導入連携を広げ活用されている機器です。
「地域新MaaS創出推進事業」の詳しいお話はこちら↓
【コラム】地域新MaaS創出推進事業について
ではここで、『TANO』についてご紹介しておきましょう。
- 製品名 TANO(タノ)
- 開発 TANOTECH株式会社(タノテック カブシキガイシャ)
- 特徴
1.コントローラーやセンサーを装着することなく使用でき、煩わしさがない。
2.画面にセンサーを設置するだけで人の動きを感知。ゲーム感覚で運動ができる。
3.コンテンツ(ゲームの種類)は100種類以上あり、中には太極拳などもある。
4.コンテンツはカスタマイズ(設定などの変更)ができ、独自のコンテンツを作れる。
紹介:TANOTECH株式会社 https://tanotech.jp/
参照:みんなの介護 https://www.minnanokaigo.com/news/visionary/no102/
実際に使ってみて
何事もやってみなくちゃわからない。ということで、早速ご利用者様に使用していただき、感想をお伺いしました。
A様:何をするのかよくわかりませんでしたが、自分の手足を動かすだけで点数が入り、ほかの人より多く点数が入るように夢中になって頑張りました。
B様:最初は思うように画面の動きに手足が合いませんでした。でも徐々にできるようになり、花火がたくさん見えるようになってうれしく感じました。
C様:回数を重ねるごとにやっている最中にも声を出せるようになって楽しかったです。
D様:何をしているのか理解できなかったが、体を動かすのは良いことだと思いました。
みなさん初めての体験で、戸惑うところもあられたようですが、楽しんでご利用いただけたことが伺えますね。
まさにTANOTECH株式会社がうたっている「楽しんでいたらいつのまにか体を動かしていた」という『TANO』の特徴が活かされた結果となったのではないでしょうか。
職員の方にも感想を伺いました
Q:活動中のご利用者様の様子はどうでしたか。
-
- みなさん最初はなにをしているのか理解できず、体を動かしている感じでしたね。でも、徐々に笑顔が増えてきたように思えます。
- 初めからコンテンツの内容をご理解されている様子の方が数名いらっしゃったのには驚きました。
- 最後の方は、ご利用者様だけでなくスタッフも一緒に楽しくワイワイできたと思います。
Q:活動をすることで、どのような効果を期待しますか。
-
- 何かにチャレンジしようという姿勢はご利用者様にとってとてもプラスになるのではないかと感じました。
- 長い1日の中で、時間を持て余しているご利用者様がいらっしゃることは否めません。その中でこのような取り組みは非常に有効だと思います。
- 今現在も試行錯誤しながらレクリエーションを考案しているところですが、大事なことはご利用者様に「楽しんでもらう」ことだと思っています。その中に『TANO』が含まれるようになれば、ご利用者様にとってとても刺激になり、元気なお姿が拝見できるのではないでしょうか。
Q:今回の活動を踏まえて、今後eスポーツの可能性についてどう思いましたか。
-
- まだ導入して間もないので何とも言えませんが、毎日少しずつでもいいので取り組めれば、充分高齢者の方々にも受け入れられるものになるのではないでしょうか。
とにかく初めての試みで、「戸惑いながらもなんとかできた。」という印象を受けました。しかし、お話を伺った中で共通して感じたことは、「ご利用者様に楽しんでいただく」ことを一番に考えて取り組んでいるということです。きっと良い意味で、ご利用者様とひとつになって楽しめたのだろうと強く感じると共に、その光景が目に浮かぶような、そして心温まるお話を聞くことができたと感じています。
まとめ
いかがだったでしょうか。夢中に楽しみながら知らないうちに体を動かしている。それが結果として認知症予防や、体力の維持向上などに役立っているのであれば、うれしい限りですね。
ゲームと高齢者の方々が巡り合うことができたのは、ゲーム業界が長年、ソフト開発や周辺機器の開発に根気よく取り組み、発展させてきた結果でしょう。これは「時代がもたらした必然」といっても良いのではないでしょうか。
わたしたちは今回の活動を、opsol株式会社のモデルケースとして位置付け、今後の展開に向けてモニタリングを進めて行こうと考えています。
また、この活動を通じて、ご利用者様の健康維持と活き活きとした笑顔が、絶え間なく拝見できることを願って止みません。
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